「もったいない」という言葉に込められた思いは、日本が世界に発信する誇るべき日本の文化である。しかし、住まいの現場ではこの思いが生かされているとは言えない。日本の住宅の平均耐用年数は27年ほど、消費大国と呼ばれるアメリカでさえ44年、イギリスに至っては70年を超える。世界に比べて異常に寿命が短いのが日本の住宅の現状だ。CO2の固定という観点から見ても好ましくない。50年かけて育てた木を27年で燃やしていたのではCO2は増えるばかりだ。50年かけて育てた木を、家として50年以上使ってはじめてCO2の固定は出来る。
この家の住まい手はご相談をいただいた当初から再生をご希望された。築100年の住み慣れた家の基本を生かして床の段差、使い勝手、暑さ・寒さ、安全性などを改善したいということだ。特に補強を心がけたのは断熱と気密の性能。「住宅は夏を旨とすべし」の精神で出来ている古民家は、涼しくはあるが暖かくはない。間仕切りの少ない風通しの良い間取りを生かして、家全体をすっぽりと杉皮や羊毛の断熱材で包み込み、床暖房を採用して暖かくて温度差の少ない室内環境の創出を目指した。
100年の歳月は容赦なく住まいのあちこちを蝕んでいる。柱や梁などの基本骨格部分にさえ使用不能のヶ所はおよんでいる。手直しは家全体を見直すことから始まった。技術的に解決出来る問題の他にも古民家を再生する場合にはどうしても納得いただかなければならない事柄もある。一つは地震や台風などの力に対処する方法が違うことだ。現代の多くの建物は外からの力にしっかりと抵抗する壊れにくい構造だが、古民家はそれらの力を受け流すように出来ている。つまり、多少傾いたりすることで力を吸収し、結果的に人命を守る・・という構造なのだ。二つめは、本格的な再生は新築するほどの費用が必要になるということだ。
古民家の再生は古くなって価値が無くなったと思われている物に大いなる価値を見いだす仕事だが、障害を乗り越えて見事によみがえった住まいの放つ存在感と、住宅としての快適な諸性能は、再生という大仕事に取り組む意義と価値を再確認させるのに充分なものだった。
「目の前にあるまだ使えるものを使うのは当然のことだ」という住まい手の言葉がとても印象深く心に残っている。住まい造りにかかわるものとして「住み継ぐ意志」に応えられたことのうれしさと、その素材を残してくれた先人に感謝している。
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