住まい手は幼稚園に通う二人の子供さんを持つ30代のご夫婦である。300坪を超える南北に長い敷地は南側に道を挟んでみかん畑、東側にもみかん畑、西側は一段下がったところに隣家、さらに下がって幼稚園、北側には川を望む360度眺望に恵まれた自然の中にあった。初めて現場に伺った時にはまだみかん畑であった。そこを整地して新居を建つ。
ご夫婦からは自然と共に生活できる家であること、家族に一体感が生まれる間取りであること、そして、生活の内部にまで入った土間を持つ空間があることなどの要望が出された。土間が生活空間につながった間取りというのは民家の原風景でもある。その地に根ざした生活のあり方を自らも実践しようとされるご夫婦に共感を覚えた。
2間×3間のグリッドを3つつなげて、それを2層に組み上げたものを基本骨格とし、その中に、上下左右につながりのある風通しの良い居間を中心とする空間を創った。そこに直接玄関アプローチから続く土間が入り込む生活感豊かなプランを提案したところたちどころに気に入られた。以後の打ち合わせは非常にスムーズに進んだ。ただし、土間を内包し、開放感豊かな大空間を持つ木造住宅を設計する場合特に重要となる要素が二つある。
一つは耐震・耐風強度の確保であり、もう一つは冬場の暖気の確保である。 窓が多く開放的であることや室内に大空間を持つということは同時に壁の量が少ないということを意味する。少ない壁に無理な強度を持たせると建物のバランスを崩したり木造の構造物にはふさわしくない金物補強が必要になる。建物強度を確保する構造壁はあまり強くないものをバランス良く入れたい。そこでこの建物では本体で不足する壁量を建物の外側で補うことを試みた。
具体的には、見付け面積の大きい東西の壁から桁を持ち出し、これに杉丸太を三角形に組んだものを取り付けて、その部分にX・Y各方向の壁量を肩代わりさせることとした。今ひとつの問題は冬場の暖房である。これには薪ストーブの利用を提案した。室内に入り込む土間部分を、基礎のコンクリートとは充分な断熱をし縁を切っておいて蓄熱層として利用するのである。本来、室内に蓄熱層を持つことはその空間の熱環境を四季を通じて穏やかに保つことに役立つ。たった一機の薪ストーブが40坪弱のこの住まいを充分に温めてくれることだと思う。
吹き抜けのある大空間を提案すると、「そんなことをすると空調が効かなくて大変なことになるでしょう。」と言う人がいる。「まず冷暖房設備に頼らなくても快適に暮らせるように建物に最大限の工夫を凝らしましょう。そして、足りないところを機械設備で補いましょう。」と私は答える。
その地でどう快適に暮らすか?・・の工夫は各地に残る伝統民家のあり方がその知恵を授けてくれる。当地では低く深い軒の出、上下左右につながりのある風通しの良い空間、土塗り壁とあらわし木材による室内の蓄熱・調湿体の確保。そして、外断熱・通気工法の新しい工夫の追加が機械依存を最小にしてくれる。
龍神の家が完成してから早いもので1年になる。「薪の確保が大変だ。」とこぼしながら、それでも楽しそうに火の守をされていたご主人、家中を走り回っていた子供たち、ほほえましく見守っておられた奥さん・・。二度目の冬に充分な薪は確保できたんだろうか・・玄関脇のヤマボウシが新芽を付ける頃に久しぶりに尋ねてみようと思う。
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