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木の国の家
●木の国の家
1-1 山の現状
1-2 住宅を取り巻く現状
1-3 人工林との共生
1-4 木の国の家の提案
2-1 要素の抽出
2-2 グルーピングと考察
2-3 結果
3-1 要素の関係解析
3-2 構造材あらわし構法
   の採用
3-3 基本架構はグリッド
   で構成する
3-4 地域の知恵に学ぶ
3-5 仕様概要
4-1 基礎
4-2 設備配管基礎貫通
   部納まり
4-3 土台・外壁・内壁・
   1階床廻り
4-4 2階床廻り
4-5 外壁上部・桁・屋根・
   軒先廻り
4-6 屋根・棟部
4-7 建物強度
5-1 「節あり並材」使用量
   にみる傾向
5-2 コスト分析に見る傾
   向
6-1 見学者に対するアン
   ケート調査
6-2 調査結果
7-1 居住者に対するヒア
   リング調査
7-2 調査結果
7-3 住まい心地ヒアリン
   グシート
8-1 階層分析法による優
   先順位の解析
8-2 結論
森から住宅を考える
 
木の国の家 活動プロジェクト 中村伸吾建築設計室
中村伸吾




ブレーンストーミング(KJ法)により抽出されている以下の8項目の要素(サブシステム)が互いにどのような関係を持ち、全体の因果関係の中でいかなる位置をしめるのかをバイナリデータによる構造化法(ISM法)によって解析し、どのようなパス(経路)を経て原因や結果が生じるのか、8つの項目の中で何が他のサブシステムに優先する基本要因であるのか、何が結果として達成されるべき要素であるのかを明確にし、紀南の地に建つ「木の国の家」の組み立てを明快にする。


バイナリ構造化法による解析

      「木の国の家」8つの要素
1.
地域循環型社会の実現

2.
地域の気候風土にあった家づくり

3.
五感で楽しめる構造材あらわしの家

4.
住宅は資産と認識しよう(住宅は公的資産でもある)

5.
紀州材を使おう

6.
家族が健やかに暮らせる家がほしい(自然素材の家づくり)

7.
環境共生の視点を持とう

8.
メーカーハウスのイメージ



 
右の表は8つの要素間に与えられた直接関係行列を示す。バイナリ値の与え方はAが原因となってBが引き起こされる場合(AとBに因果関係がある場合)に「1」を、ない場合に「0」を与える。例えば、「地域の気候」に適した住宅を建った場合、だからその家が「五感で楽しい」家になるとは限らないからバイナリ値は「0」である。しかし、その住宅は永い耐久性を有し個人的にも公益的にも「資産」と成り得るからバイナリ値は「1」である。

上記の要領で「1」と「0」を与えられたこの行列をバイナリデータによる構造化法(ISM法)の基礎データとなる直接関係行列とする。
【直接関係行列】▼表1
地域の気候
0 0 0 1 0 1 1 0
紀州材使用
1 0 0 0 1 0 1 0
五感で楽し
1 1 0 1 1 1 1 0
住宅は資産
0 0 0 0 0 0 1 0
地域循環型
0 1 0 0 0 0 1 0
家族が健や
0 0 0 0 0 0 1 0
環境共生の
0 0 0 0 0 1 0 0
メーカーハ
0 0 0 0 0 0 0 0

                                            【可到達行列】▼表2
     
D+R
D-R
      1 2 3 4 5 6 7 8          
地域の気候
1 0 0 1 0 1 1 0

紀州材使用
1 1 0 1 1 1 1 0
五感で楽し
1 1 1 1 1 1 1 0
住宅は資産
0 0 0 1 0 1 1 0
-2
地域循環型
1 1 0 1 1 1 1 0
家族が健や
0 0 0 0 0 1 1 0
-5
環境共生の
0 0 0 0 01 1 0
-5
メーカーハ
0 0 0 0 0 0 0 1

表1の直接関係行列からバイナリデータによる構造化法(ISM法)により可到達行列及びD+R、D−Rを求めた。その結果を表2に示す。又、8項目をD+R軸、D−R軸による空間に布置したものを図1に示す。さらに、可到達行列の結果を有向グラフとして図1に書き加え構造グラフ化した。


▲図1

この分析結果を解釈すると以下のようになる。

要素の相互関係

         住まい手に関係するパス
パス1.
A→B→D→F
構造材あらわしの五感で楽しめる家 ⇒ 紀州材で建てる ⇒ 地域の気候風土にあった家づくり ⇒ 家族が健やかに暮らせる家

         地域に関係するパス
パス2.
A→B→D→E→G
構造材あらわしの五感で楽しめる家 ⇒ 紀州材で建てる ⇒ 地域の気候風土にあった家づくり ⇒ 耐久性も良く、個人的にも地域にも財産となるようなものが出来上がる ⇒ 環境共生にも望ましい

パス3.
A→C→E→G
構造材あらわしの五感で楽しめる家 ⇒ 地元の材料、地元の職人で作ることで地域循環型の社会を目指す ⇒ 地域性豊かな、地域の資産となるような住宅が蓄積される ⇒ 環境共生にも望ましい


基本要因

「五感で楽しめる構造材あらわしの家」

現在の木造住宅の多くは基本構造部(木造軸組部)が表面に現れることはほとんどない。その結果、住宅は地方性の喪失とデザインの均質化を招き、元来その地での住まいやすさを保証してきたものを手放してしまった。又、構造部材を隠蔽することで木材はその質を問われることが少なくなった。現場では目利きの必要がなくなり、木配りや刻みに代表される大工職の伝統の技術が消えつつある。壁の中で構造部材としての性能さえ持っていればいいのであれば、もはや「木」は「木」である必要さえない。そのような現況に鑑み、「木の国の家」は、基本要因に忠実であるべく「木」がその持ち味を充分に発揮出来るよう「構造材あらわし構法」を採用する。

達成されるべきもの

「家族が健やかに暮らせる家」

住宅が持つべき性能の最も基本的なものは、住まい手の生活を健康に、安全に守ることである。今回の、バイナリ構造化法による解析の結果はそのことを明快に、端的にあらわす。住宅建築はそこから目を離しては成立しないことを改めて知るべきである。

「環境共生」

人間も環境を構成するものの要素の一つである以上、環境循環のサイクルの中から逸脱することは出来ない。むしろ、今までにない積極的な参加こそが住宅建築の現場でされるべきなのである。住宅建築は、人が環境に与える大きな負荷のひとつである。持続的に再生可能な材料で造り、負荷の少ない生活をして、もう一度、新しい環境循環サイクルを創り出すのだという認識を持ちたい。



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要素の関係解析から「木の国の家」にとって「構造材あらわし」は特に重要な要素と判断できるので、基本構成の一つに採用する。以下に、その場合の利点を述べる。


木材の特性を引き出す
木材には、調湿機能がある。部屋の湿度が高すぎると湿気を吸収し、逆に低すぎると湿気を吐き出して室内の湿度を快適に保つ。その機能は体積に比例する。杉厚板の室内への大量使用は湿度の調節に大いに役立つ。しかし、それは室内にあらわしで使用されて初めて機能するのである。

最近では、木材が生物に与える興味深い報告がいくつかなされているので紹介しておきたい。

静岡大学で、木製、鉄製、コンクリート製の箱の中でそれぞれ飼育されていたマウスから生まれた子マウスの観察実験がなされた。23日後の生存率は、

 木製の箱
85.1%-
 鉄製の箱
41.0%-
 コンクリート製の箱
6.9%-
となる。

発育状況も、木製に比べて鉄製、コンクリート製は劣っていたという。木材は生物の生存そのものに大きく関わり、それに適した環境を提供する。

右図は、コンクリート校舎の内装を天然木材にて改装した場合の、教室のイメージ変化を聞き取り調査した結果である。項目ごとのばらつきはあるが、概ね、子供の教育環境としては好ましい方向に変化している。

最近では森林の癒し効果と共に、木材の癒し効果が大きく取り上げられるようになった。木目には、自然のゆらぎで人の心をリフレッシュさせる効果があるといわれている。


「木材工業」東修三  No.29(1974)

木材本来の耐久性を生かす

木材を密閉する大壁構造の仕様は、壁内結露を発生させ、木材ばかりでなく、金物の腐食を意外なほど早め、建物そのものの耐久性さえ大幅に低下させる。木材は湿度調節機能を持つので、その調節がスムーズに行われるよう、外部か、内部のどちらかに、必ずあらわしで使用する必要がある。そうすることが、木材本来の耐久性を享受できる方法である。
木造架構が見事なデザインとなる設計
   安藤 邦廣 氏
「木」で家を建つ理由がダイレクトに表現できる

構造材をあらわしで見せるということは、架構(梁組、小屋組)が丸見えになるということだ。天井裏や壁内にあって、これまで意識の中になかったものが、今度は評価の対象となる。こうなってはじめて、架構の善し悪しが問われはじめる。在来木造が小部屋の羅列的な構造様式を持ち、柱をつなぎあわせるだけの、やせ細った架構構造を持つことへの反省が生まれる。

架構が日本建築を成り立たせていた姿を取り戻すに至って、木造建築は旧来持ち得た構造強度などの諸性能を発揮するようになる。さらには、架構をいかに造形的に、感性的に造るかということに思い至り、木造建築だからこそ成し得るデザインの出現の助けとなり、大工職の伝統技能の復権にもつながる。




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1000年を超えて日本の住文化を支えた民家の成り立ちに倣う。歴史が検証した構造には見習うべき合理性があると判断する。「田の字」に代表される基本架構をグリッドとする構法を基本構成の一つに採用する。以下に、その場合の利点を述べる。


構造安定性が増す
鉄骨造(柱・梁による構造)の建物で、柱や梁のことを考慮に入れないでプランニングに取りかかることはない。プランニングが進んでいくということは、同時に架構計画も進んでいくことを意味する。プランニングが決定した時には柱位置や、梁構造までの全体構想がまとまっていなければならない。そうでなければ建築は成立しない。在来木造は鉄骨造と同じ構造ではない。しかし、間違いなく、柱と、梁で構成され、それが基本構造となって内部空間を構成する建築物なのだ。この原則に則っていなければつじつまが合わない。
あらわし構法による住宅の上棟風景
平面間取り優先の素人プランも、ちょっとした手直しで、そのまま現実のものにしてしまう日本の木造建築物の技術レベルは世界に誇れるほど高い。しかしそのことが木造建築物の基本を忘れさせてしまった。「木の国の家」では、忠実に基本架構をグリッドにて構成する。そうすることが建物の構造安定性を飛躍的に高めることを古来の民家が歴史で証明している。

経済性が高い

山での玉切り(切り出した木材を搬出のため経済的で扱いやすい長さに切ること)は3m・4m・6mとなることが多い。山よりの木材の搬出、運搬、大工小屋での加工。それに、プレカットなどを考慮に入れると、木材の経済スパンは決まってくる。特注をすれば、常識的な範囲では、いかなる材料も揃うが、価格は高額となる。グリッド寸法は通常これらの経済スパンを尊重するため経済的な木組みが可能となる。

間仕切りの可変性を生む


基本架構をグリッドにてしっかり組むと、そのほかのところに、よけいな応力の負担をさせないで済むことになる。これは同時に、間仕切りの自由度を増す結果を生む。建物の耐久性を向上させるということは、世代を超えて住み継がれる可能性を有するわけだから、のちの増改築にも対応しなければならない。木造による、スケルトン・インフィル構造を可能ならしめるのは、基本架構をグリッドにて構成する時の大きな強みとなる。

参考事例

現実に建築されたものの中より代表的なものを3例紹介する。実際の建築現場では敷地の状況、建築費、住まい手のニーズ、ライフスタイルなどの状況から多様なグリッドが試みられるだろうから参考になればと思う。

Tさんの家
1階
2階

梁間4間・桁行き7間の全体の中に、梁間2間・桁行き2間のグリッドが4つ、梁間2間・桁行き1.5間のグリッドが4つの合計8つのグリッドで構成される。南側はデッキ、南西の角には玄関が位置するため外壁は後退する。現在では地廻りはそれぞれの外壁の上部に設定されることが多く変形グリッドとなりそうなケースであるが「木の国の家」の場合グリッドを構成する柱は本来あるべきところに当然のようにある。外部と内部にまたがってグリッドの中に存在する全ての空間を大屋根が包み込む。

グリッドの中心に位置する5本の柱は通し柱となり、そのまま棟木に達する棟持ち柱となる。
又、中央の3本の柱は負担面積が大きく四方差しとなるため6寸の断面を持つ。

「木の国の家」では床剛性の確保を杉厚板のみに頼ることなく必ず火打ち梁を併用する。そ
のため、吹き抜けなどの空間は比較的配置しやすい。この住宅の場合も2階小屋裏にある多目的室と食堂上部の吹き抜けが面白い繋がりとなり独特の空間を作り出す。

基本架構をグリッドにてしっかりと造るということは自由な空間を構成するための大きな要素の一つである。

Kさんの家
1階

2階

梁間4間・桁行き5間の全体の中に、梁間・桁行き共に2間のグリッドが4つ、梁間2間・桁行き1間のグリッドが2つの合計6つのグリッドが2層に積み重なり総2階の構成となる。
グリッドの外形がそのまま建物の形となり、基本的な部屋割りはグリッドに従属し、わずかに玄関ポーチだけが下屋として取り付いている。

吹き抜けも持たず非常にシンプルで基本に忠実。地廻りはグリッドの外形の通りに廻り、屋根は切り妻の大屋根となる。経済性と合理性、構造安定性に優れ、住まい手のニーズに対応して将来いかようにも発展させ得る可能性を持つ。中央の通し柱は四方差しとなることから6寸の断面を持つが、2層分の長さが必要なことから特に棟持ちとはしていない。そのため中央胴差し上部には振れ止めの筋交いが取り付く。

Eさんの家
1階
2階

梁間3間・桁行き7.5間の基本フレームの中に、梁間3間・桁行き2間のグリッドが3つ半2層に並んで基本架構を構成する。車庫、玄関ポーチ、外部のユーティリティと風呂、便所などの水廻りが下屋として基本フレームに取り付いて全体を構成する。2階ベランダ部も含め下屋部分は桁落ち納まりとし、建物全体の高さを感じさせないデザインとしている。

この住宅の特徴は梁間を優先させて胴差しに3間の長物を用いたことである。横架材は、これがリーズナブルな価格で入手できる最長の物となる。3間架構を特に用いたのには3つの理由がある。1つは通し柱が四方差しとなり耐力を下げることを嫌ったからであり、2つはグリッドを細かく区切りすぎて基本フレームの安定性を失うことを避けたためである。3つは食堂と居間の間に大断面の通し柱を立てたくなかったのである。その代わり、通常の胴差しの位置に(図中黄色線部分)構造梁を設け、渡り顎仕口にて梁間方向中央の胴差しを受けることで補強した。これにより床荷重は梁間・桁行き共に2間のグリッド構成と同程度の荷重負担でよく、架構も安定する。




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土塗り壁


「木の国の家」は現代住宅が抱える諸問題を解決するのに、要素の抽出の項目からみても明らかなように、「地域性」に学ぶ、という方向を選んだ。この判断は、温熱環境に関する項目でいうと、高気密・高断熱に代表されるアクティブな方法をとらず、先人の生活の知恵に学ぶパッシブな方向を選んだということに他ならない。

紀南の地で、民家にみる最も代表的な暑さ、寒さ、に対する対処方法は、外壁部に竹子舞を施工し、そこに内外から土塗り施工をするエツリ壁(土塗り壁)という工法だ。
これにて断熱の役割、調湿の役割、さらに蓄熱の役割を果たす。

現代でも、当地では、特に和風住宅においては土塗り壁は広く採用されており、「木の国の家」がこの方法を選択するのに何の抵抗もない。但し、現代人の要求する温熱環境には性能が不足するおそれがあるため、外断熱・通気工法との併用で対応する。

開放的に住まう

民家の形式の最も基本的なものは「田の字」のプランに代表される。これは当地方においても例外ではない。軸組造にて造られていたこれらの民家は、外周には壁があるけれども内部の区画は建具で区切られるだけであるから、がらんどうの大空間となる。この構造は、湿気の多い自然環境の中で、いかに快適な内部空間を造るかに対する結論だった。

部屋を現代住宅のように細分化してしまうと、風の通りはまず確保できない。その上にビニールクロスのような通気性のない新建材で覆ってしまうから、空気は少なくなりすぐに人間の影響を受け不快な環境を造り出す。機械設備に頼った生活しかしようがない。
「木の国の家」では出来る限りにおいて、開放性を強める。吹き抜けなども採用して空気の自然対流を促す工夫をする。そうすることで機械設備依存の少ない生活を可能にする。





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