この家に引っ越してから、テレビを見る時間が減った。これも木の効果なんでしょうね。
温泉とマリンリゾートで有名な白浜。が、改めて見直すと、白浜への道中、車からの景色のほとんどが、山。海岸のすぐ際まで山が迫っている。紀州の深い山並みは、確かに白浜までつながっていた。
海辺に近い里山を開発した展示場のような分譲地のなか、ただ一軒だけが、どっしりと根付くようにして佇んでいた。川村邸である。
ご主人の川村高洋さんと話を進めるにつれ、人一倍の情熱家であることが伝わってくる。父親と同居する話が持ち上がった。実家は築10年の戸建てで、部屋数も多い。が、川村さんはこれがよい機会と周囲を説得し、家を新築することを提案した。選択肢は二つ。温もりのある木の家か、予算内に収まる新建材の家か。予算を気にしてモデルハウスを巡っているうちに、気が付けば、あるメーカーとの契約が進んでいた。
「でも、何か違うという思いを捨てきれず、ここで妥協したら一生に一度の家がニセモノになってしまうと思って、結局、契約を破棄しました」
契約金の半額は戻らない。心機一転、ゼロからの再出発。途端に出会いが巡ってきた。新聞で知った「木の家」の見学会に出向き、その心地よさと理念に感動した川村さんは、その家の設計者、中村伸吾さんにすべてを託そうと決意した。実は、メーカーとの契約を進める最中にも、「木の家」という理念を捨てきれなかった川村さんは、密かに方眼紙に夢の我が家の絵を描いていたという。中村さんとの初回の打ち合わせに持参した方眼紙の自作の間取り図。吹き抜けのあるリビングに、薪ストーブ…。「何よりも、『こう住まいたい』という熱い思いが伝わってきました。その思いを、そのまま民家型構法にあてはめて設計したんです」
中村さんの理念は、「地域性」を取り戻すこと。これにはまず、地域の木を使うこと。柱や梁が内から丸見えになる民家型構法は、「『木』が存分にその存在意義を発揮できる」構法なのだ。夏の日差しが強い紀州では、家の軒を深くするなど、古くから夏を快適に過ごすための工夫を凝らしてきた。問題は冬の寒さであるが、それは川村さんご希望の薪ストーブで解決。夏仕様の紀州の民家に、薪ストーブはうってつけなのだ。